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青森地方裁判所 昭和44年(ワ)144号 判決

原告

内藤精一

ほか一名

被告

佐藤忠久

主文

被告は、原告内藤精一に対し金六二一万円、原告内藤キサに対し金一〇〇万円、ならびに、右各金員に対する昭和四四年五月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

一  原告ら訴訟代理人は、主文第1、2項と同旨の判決および仮執行宣言を求め、請求原因として次のように述べた。

1  訴外仲田俊一は、昭和四一年九月一六日午後三時頃、小型貨物自動車を運転し、青森市大字大野字長島八四番地附近の路上を進行中、原告精一運転の自動車に追突し、その結果原告に対し、頸椎損傷、外傷性頸髄症等の傷害を負わせた。

2  右加害自動車は、被告が他から買受けて所有していたものであるが、本件事故は、前記仲田が、被告の使用人として、被告の業務のために右自動車を運転したことによつて発生したものである。仮に右自動車を買受けたのが被告でないとしても、被告は、右自動車の所有者である訴外青湾建設企業組合(以下組合という。)から、その使用および保管を委ねられ、事実上自動車の運行を支配・管理しうる地位にあつた者であるから、本件事故について、いわゆる運行供用者として損害賠償責任を免れない。

3  原告精一は、本件事故の結果、頸椎損傷、外傷性頸髄症等の傷害を負い、その治療のため、じ後約二年間入院したが、頸椎の運動性喪失、運動痛高度、左手指に放散する疼痛、左手指の知覚異常、頭痛、眩暈、嘔気等の後遺症を残したまま症状が固定し、これらの後遺症の影響によつて、労働が全く不可能となつたうえ、日常生活にも著しい困難を伴う状態にある。

4  原告らが本件事故によつて蒙つた損害は次のとおりである。

(イ)  原告精一は、当時、木島林業事務所に勤務し、金三万円の給与を得ていた者であるから、昭和四三年九月までの二四か月間に合計金七二万円の収入があるはずであつたが、本件事故により稼働できず、労災休業補償として毎月金一万四、六〇〇円を支給されたにすぎない。したがつて、右の受給額を控除して右二四か月間の逸失利益を算定すれば少なくとも金三六万円になる。

(ロ)  原告精一は、前記症状が固定した昭和三四年一〇月当時満三四才で、本件事故がなければじ後二六年間稼働可能であつたとみられるが、前記のように全く稼働できず、労災障害補償年金として一か年に金九万三、九六〇円の支給を受けられるにすぎなくなつた。したがつて、前記給与額と右受給額との差額の二六年間分から、年五分の中間利息を控除して、右期間中の逸失利益につき、症状固定時における現価を求めれば、少なくとも金四三五万円になる。

(ハ)  原告精一の慰藉料 金一五〇万円

原告精一は、本件事故により、長期間肉体的苦痛を味わされたうえ、廃人同様の身体になつたが、これらによる甚大な精神的苦痛を金銭で慰藉するとすれば、その額は金一五〇万円が相当である。

(ニ)  原告キサの慰藉料 金一〇〇万円

原告キサは、原告精一の妻であるが、二人の子供をかかえたうえ、夫に右のような身体になられてしまい、その精神的苦痛は計り知れない。

5  そこで被告に対し、原告精一は右(イ)ないし(ハ)を合計した金六二一万円、原告キサは金一〇〇万円、ならびに、これらに対する前記症状固定後である昭和四四年五月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告訴訟代理人は、請求棄却・訴訟費用原告負担の判決を求め、答弁および抗弁として次のように述べた。

1  本件事故の日時・場所、双方の自動車の運転者がだれであつたかは認めるが、事故の態様は知らない。

2  仲田運転の自動車が、被告が買つたものであること、および、被告がこれを事実上支配管理しうる地位にあつたことは否認する。すなわち、右自動車を買つたのは前記組合であり、組合において組合の業務のためにこれを使用していたが、購入に際し、車庫証明の関係で組合が所有名義人になれなかつたため、被告を所有名義人にするという形式がとられたのにすぎない。

3  原告らの損害の内容および額は争う。

4  仮に被告が本件加害自動車の運行供用者であるとしても、仲田は、被告の使用人でなく、一時被告の仕事を手伝つていたにすぎないし、また、当時被告から右自動車の使用を固く禁じられていたのに、被告のすきをうかがつて施錠をこじあけたうえ、私用のためこれを運転した際に、本件事故を起したのであるから、被告には運行供用者としての責任はないというべきである。

三  〔証拠関係略〕

理由

一  訴外仲田俊一の運転する自動車が、原告主張の日時・場所において、原告精一運転の自動車との間で交通事故を惹き起したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すると、右の事故は、原告精一が、仲田運転の自動車に追突されたことにより、原告ら主張のような傷害を負つたというものであり、原告らは、その結果その主張のような損害を蒙つたことが認められ、その反証はない。

二  被告が右加害自動車を買つたことは、これを認めるに足りる証拠がなく、かえつて関係証拠によると、右自動車は、前記組合において買受けたものであることが窺えるが、他方、〔証拠略〕を総合すると、本件加害自動車は、組合において、原告が組合設立に際し現物出資した自動車を下取車として別の自動車を購入したのち、これをさらに下取車として購入したものであること、右自動車は、本来組合を所有名義人として登録されるべきところ、組合が独自の保管場所を持たず、車庫証明が得られなかつたため、形式上被告の所有として登録され、かつ、夜間等には主として、被告方において保管されていたこと、組合は、被告ら数人の大工の棟梁により構成され、組合名で仕事を請負いかつこれを施行していたが、実際の仕事は各棟梁が共同してこれを行うわけでなく、施行の段階で個々の棟梁に割り振られたうえ、各棟梁においてそれぞれ独自の職人等を使つてこれを行つていたこと、組合所有の自動車に関しては、一応、それぞれの車の機能に応じて、組合員のだれでも使用できる建前になつていたが、本件加害自動車は、実際には主として、被告において使用していたこと、以上の諸事実が認められ、〔証拠略〕のうち右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして右の事実に徴すると、被告は、右自動車について、事実上自動車の運行を支配・管理しうる地位にあつたものとして、運行供用者にあたると解するのが相当である。

三  〔証拠略〕を総合すると、仲田は、被告の正規の従業員ではないが、当時、ときどき被告の工事現場にやつてきて、遊び半分ながら仕事の手伝いをしていたこと、そこで被告も、同人に対し、一、二度小遣銭を与えていたし、本件自動車の運転を依頼したこともあったことが認められ、その反証はないが、右のような事情のもとでは、本件事故がたまたま仲田の無断運転によるものであり、またその頃はすでに仲田が運転を禁止されるようになつていた時期であつたとしても、被告は、運行供用者として損害賠償責任を免れないというべきである。

四  以上によると、原告の本訴請求はすべて正当である(前記各損害はすべて本件事故と相当因果関係があると解されるし、慰藉料の額も相当である。)から、これを認容し、訴訟費用について民訴法八九条、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 本郷元)

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